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サンゴと藻類の共生

キーワード:細胞内共生・種特異性・貧栄養環境適応・サンゴ礁生態系

なにを研究している?​

サンゴは動物でありながら褐虫藻を細胞内に共生させることで、光合成で栄養をえています。一方、褐虫藻もまた、サンゴ細胞の中に共生することで、豊富な栄養塩をえています。この共生関係が生物多様性に富んだサンゴ礁生態系の基盤となっています。私たちは「サンゴと褐虫藻の共生がどう起こるのか?」、「なぜサンゴは褐虫藻を共生させられるのか?」、「なぜ褐虫藻はサンゴに共生できるのか?」といった疑問に対して生理学をメインに研究しています。

褐虫藻を共生するのはサンゴだけ?

 サンゴ種は世界におよそ1600種存在し、その半数が褐虫藻を共生させると言われています。また、褐虫藻を共生させるのはサンゴだけでなく、サンゴと同じ刺胞動物のイソギンチャクやクラゲでも見られます。また、刺胞動物以外でも見られます(例えば無腸動物)。シャコ貝でも褐虫藻との共生が見られますが、これは細胞外共生で、サンゴなどで見られる細胞内共生とはメカニズムが異なります。

褐虫藻とは?

 褐虫藻とは共生性の渦鞭毛藻の総称です。褐虫藻はSymbiodiniaciea科の渦鞭毛藻で、それにはいくつもの属があり、またそれぞれの属にいくつもの種(タイプ)が存在します。そのため、褐虫藻といっても、遺伝的にも生理的にも多様で、ゲノムサイズや細胞サイズや光合成活性やストレス耐性が異なります。褐虫藻の生活には、共生状態と非共生状態とが存在します。非共生状態の場合、海水中を二本の鞭毛を使って泳ぐことができます。ただ、サンゴなどの細胞内に共生している場合、鞭毛を持たず、じっとしています。

どのように褐虫藻を共生させるの?

 褐虫藻を共生させるサンゴ種の約3割は、親から子へと褐虫藻が受け渡されます(垂直伝播)。残りのサンゴ種は、環境中から褐虫藻を獲得します(水平伝播)。環境中から褐虫藻を獲得して共生させるには、1)出会い、2)ポリプ内への取り込み、3)ポリプ内での輸送、4)細胞内への取り込み(エンドサイトーシス)、5)維持といったプロセスがあります。環境変化に伴い、新たな環境に適した褐虫藻種(タイプ)を獲得・共生させることで、環境適応することが知られています。

共生パートナーをどう選ぶ?

 褐虫藻には遺伝的に異なるいくつもの種(タイプ)が存在し、また褐虫藻を共生させるサンゴ種も多数存在します。興味深いことに、両者には共生パートナーに対する好みあります。例えば、Aというサンゴ種がいたとして、このサンゴ種に共生できる褐虫藻種とできない褐虫藻種のグループが存在します。逆も同じで、Xという褐虫藻種がいたとして、これを共生させるサンゴ種とさせないサンゴ種のグループがいます。これを共生の種特異性と呼びます。また、サンゴと褐虫藻のそれぞれに、好みの広いものと狭いものがいます。例えば、好みの広いサンゴ種の場合、より多くの褐虫藻種と共生関係を結ぶことができます。

私たちの研究成果

 サンゴなどの刺胞動物が藻類を共生させていることが実験的に証明されてまもなくして、サンゴと藻類との共生には種特異性が存在することがいくつもの動物種で示されました。これが1970年代です。それ以来、種特異性機構に関する研究が続けられ、サンゴ細胞と褐虫藻細胞の表面にある認識物質がこの種特異性に関わっていると考えられるようになっていました。しかし、私たちの研究により、これとは全く異なる種特異性機構が明らかとなりました(論文1)。その詳細を以下にしめします。

1)褐虫藻の動物(宿主)細胞への取り込みは、褐虫藻細胞のサイズ依存的に起こること。

2)細胞表面に認識物質がないような蛍光ビーズでも宿主細胞内に取り込まれること、またその取り込みがビーズサイズ依存的に起こること。

3)サンゴ種間て取り込める褐虫藻サイズが異なること。

 以上の結果より、共生の種特異性は、褐虫藻の「細胞サイズ」とサンゴの「許容褐虫藻サイズ」で決まっていることが明らかとなりました。これは、細胞サイズの小さな褐虫藻種はより多くのサンゴ種と共生関係を結べることを意味します。また、許容褐虫藻サイズの大きなサンゴ種はより多くの褐虫藻種と共生関係を結べることを意味します。この発見により、共生パートナーの好みが何で決まっているのか、また共生パートナーの好みの広さが何で決まっているかが明らかになってきました。

今後はなにを研究するの?

 オミックスの普及により、サンゴと褐虫藻の共生に関わる因子が分かってきています。しかし、未だに「なぜサンゴは褐虫藻を共生させられるのか?」や「なぜ褐虫藻はサンゴに共生できるのか?」といった共生の根幹を決める因子は見つかっていません。私たちは、その因子を見つける研究をモデル生物(イソギンチャク)を用いて進めています。

参考論文

  1. Biquand E, Okubo N, Aihara Y, Rolland V, Hayward DC, Hatta M, Minagawa J, Maruyama T, *Takahashi S (2017) Acceptable symbiont cell size differs among cnidarian species and may limit symbiont diversity. ISME Journal, 11: 1702-1712.