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サンゴの白化

キーワード:共生崩壊、ブリーチング、地球温暖化、海水温

なにを研究している?

 地球温暖化に伴い、サンゴの白化現象が頻繁に起こるようになり、生物多様性に富んだサンゴ礁生態系の存続が危ぶまれています。そのため、その対策が急務となり、世界の多くの研究者が研究を進めています。私たちは「どのように白化が起こるのか?」、「何が白化の起こりやすさを決めるのか?」、「どのようにサンゴは高温環境に適応するのか?」といった疑問に対して生理学をメインに研究しています。

 

サンゴの白化とは?

 造礁サンゴは細胞内に褐虫藻とよばれる藻類を共生させています。それにより、動物でありながら体の中で光合成をして、栄養を得ることができます。褐虫藻を共生させたサンゴは褐色をしており、これはサンゴ自身の色ではなく、共生する褐虫藻の色です。白化とは、この褐色が失われ、サンゴ骨格の白色が見える状態をいいます。白化は少なくとも異なる二つのメカニズムで起こることが分かっています。一つは、共生する褐虫藻がサンゴから失われる白化で、もう一つは共生する褐虫藻の光合成色素が失われる白化です。白化直後のサンゴは生きており、そこから回復することもできます。しかし、白化状態が長期化すると、サンゴは餓死してしまいます。

 

白化の起こりやすさに違いはある?

 サンゴの白化の起こりやすさは、サンゴ種間で大きく異なります。ただ、同じサンゴ種でも白化の起こりやすさが異なることがあります。その理由の一つが、共生させている褐虫藻種(タイプ)の違いです。サンゴは高温に適した褐虫藻種を共生させることで、白化を回避できると考えられています。

 

私たちの研究成果

1.白化メカニズム 

 白化が起こる際、共生する褐虫藻の光阻害(光による光合成装置の損傷)がよく見られます。そのため、光阻害が白化に関わっていることが考えられていました。しかし、その詳細は不明でした。そこで、「海水温の上昇による褐虫藻の光阻害機構の解明」と「光阻害が関与する白化機構の解明」をめざし研究を進め、以下のことを明らかにしました。

(1)高温ストレスによる褐虫藻の光阻害は光損傷を受けた光合成装置の修復阻害に起因すること (論文1)。

(2)褐虫藻の光阻害は「褐虫藻色素の喪失」による白化に関与すること(論文2)。

 これらの研究結果より、高温ストレスにより光損傷を受けた光合成装置の修復が阻害され、光阻害及び光合成色素の喪失による白化の原因となることが明らかとなりました。

 

2.白化感受性

 同じサンゴ種であっても共生させる褐虫藻種の違いで白化の起こりやすさが異なることがあります。しかし、その詳細は不明でした。そこで、「白化感受性機構の解明」をめざし研究を進め、以下のことを明らかにしました。

(1)光損傷を受けた光合成装置の修復の温度感受性が褐虫藻の種(株)間で異なること(論文3)。

(2)褐虫藻には高温ストレスによる光阻害を抑える高温適応機構(論文4)や光防御機構(論文5)が備わっていること。

 これらの研究結果より、光合成色素の喪失による白化の起こりやすさが共生する褐虫藻種の違いで異なること。また、共生する褐虫藻の高温適応機構や光防御機構の活性化により、光合成色素の喪失による白化が軽減されることが明らかとなりました。

 

3.白化からの回復

 白化した多くのサンゴが回復できず死滅してしまう原因を探る研究を進め、以下のことを明らかにしました。

(1)高温ストレスに曝された褐虫藻は、一時的に共生能力を失い、それにより白化からの回復が抑制されること(論文6)。

(2)高温ストレスによる共生能力の喪失の起こりやすさが褐虫藻株間で異なること(論文6)。

​ これらの研究結果より、白化からの回復が起こりにくいのは、白化の原因となる高温ストレスにより褐虫藻が共生能力を一時的に失っているからだと考えられます。

今後はなにを研究するの?

 海水温の上昇によるサンゴの白化の主な原因は、共生する褐虫藻の喪失だと考えられています。しかし、その現象に関しては、まだ多くが謎のままです。「なぜ温度が高くなると褐虫藻が失われるのか?」や「その起こりやすさはなにが決めているのか?」といった疑問に答える研究を進めています。また、これまでの研究で、高温に適した褐虫藻を共生させることで、サンゴが高温環境に適応できることが分かっています。しかし、自然界ではそのような適応は希にしか見られません。なにがサンゴの高温環境適応を難しくしているのでしょう?その疑問に答える研究も進めています。白化に関する基礎的知見の蓄積が、適切なサンゴ礁保全対策に不可欠だと考えます。

​参考論文

  1. Takahashi S, Nakamura T, Sakamizu M, van Woesik R, Yamasaki H (2004) Repair machinery of symbiotic photosynthesis as the primary target of heat stress for reef-building corals. Plant & Cell Physiology, 45: 251-255.

  2. *Takahashi S, Whitney S, Itoh S, Maruyama T, Badger M (2008) Heat stress causes inhibition of the de novo synthesis of antenna proteins and photobleaching in cultured Symbiodinium. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 105: 4203-4208. 

  3. *Takahashi S, Whitney SM, Badger MR (2009) Different thermal sensitivity of the repair of photodamaged photosynthetic machinery in cultured Symbiodinium species. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 106: 3237-3242.

  4. *Takahashi S, Yoshioka-Nishimura M, Nanba D, Badger MR (2013) Thermal acclimation of the symbiotic alga Symbiodinium alleviates photobleaching under heat stress. Plant Physiology, 161: 477-485.

  5. Aihara Y, Takahashi S, Minagawa J (2016) Heat induction of cyclic electron flow around photosystem I in the symbiotic dinoflagellate Symbiodinium. Plant Physiology, 171: 522-529.

  6. *Kishimoto M, Baird AH, Maruyama S, Minagawa J, *Takahashi S, (2020) Loss of symbiont infectivity following thermal stress can be a factor limiting recovery from bleaching in cnidarians. The ISME Journal, 14: 3149-3152.